2010/09/01

J・ケルアックに捧げる


[海かたびら]
海かたびらが、
夜のブルックリンの船着き場の海面から上がって来る。
沈没したボートの水先案内人の船室のエナメルの下着から来る。
かたびら頭がやって来る。
海水のはかなく消える水しぶき。
舵にヒザをぶつけながら上がって来る。
ドックの上であのしぐさ。
すーと姿がなくなるとブリーフケースを抱えた男になって、
区役所に姿を現す。
水滴る顔は何も語らない。
妖怪めいた口は何も言わない。
耳傾ける鼻は何も言わない。
クエスチョンマークの口は何も言わない。
何も言えない。
ブリーフケースの中は海草。
上着の裾を調べられたら、
価格変動債券はどうなる。
海かたびらはあのいまわしいオバンの中で、
中華料理を海草に変える。
かたびらは恥と薬屋の赤い横町で、
後家さんの金を巻き上げる。
むらさき沼のチンピラ。
かたびらは金をわしづかみにして立ち去る。
その日はまだ早い時間にかたびらは、
波止場の駐車場の旗竿のてっぺんに止まり、
区役所はどこかと探していた。
白鳩はどこかと探していた。
     mitomo

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