[1961年9月16日]
ベットに眠る母を考えて、
母もいつかは死ぬんだと考えたら凄く悲しくなった。
『この人生から別の人生へと旅立つのだから、死を怖れることはないわ』
と言っていた母だけど、
それでももの凄く悲しかった。
虫歯の痛みを紛らわすワインがないだけでも辛いのに。
私の体全体がむしばまれ、
そうやって死に近づいていくなんて気が狂いそうなほど悲しい。
混じりっけない夜明けに外に出た。
いったいどうして嬉しいんだ。
また戦争のうわさと共に明ける夜明けが、
それに何で私が悲しむ?
新鮮で純粋な大気で充分じゃないか。
植木が花をつけていた。
一輪が地に落ちた、
一輪は咲いたばかり、
どちらも悲しんでも、嬉しんでもいなかった。
その時ハッと気がついた。
すべては来たり、また去る。
その中に悲しみも含まれる。
やがて消えるのだ。
悲しい今日。
嬉しい明日。
憂鬱の今日。
酩酊の明日。
そんなにくよくよしてどうなる。
誰だって私と同じ次点がある。
滅入ったところでなんになる。
それも来ては去る気分のひとつ。
すべては来たり、また去る。
素晴らしいことだ。
戦争もいずれ終わる。
楽しみも終わる。
すべては来たり、また去る。
悲しんでどうする。
嬉しんでどうする。
病気の今日と、
天気の明日。
でもやっぱり悲しい!
どの場所も来るものと去るもので一杯。
その場所だって止まっちゃいない。
私たちはみんな天国に行って、
いつか見た永遠の至福に浸る。
悲しいと何でもっと上手く書けないんだ。
ヘッセばりの軽快な詩を狙ったけど、
自分の流儀でやれば良かった。
でもスタイルへのこだわりだって消える。
悲しみへのこだわりも。
私の可愛い猫はドアが嫌い。
悲しげに黙り込むことだってある。
熱い鼻でため息、やるせなくニャーと泣く。
鳥がしばしば西へ飛ぶ。
世界が去る前に、
世界を知る者などいるのか?
H・MITOMO

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