2010/07/23

旅人の中に


人生の不断を旅となし、
人間を永遠の旅人として見つめる。
旅人の視点から日常を振り返る。
そこに所有という名の喪失を、
安住という名の挫折を見出していく。
自分が社会には安住できない人間であると思い知る。
永遠にさすらい続けるのもいい。
誰からも愛されながら、
決してひとところに安住することのできない旅人。
放浪者の移ろいゆく定めを負う。
美が常に悲しみの衣に包まれているように、
深い悲しみに彩られる。
このような旅人のあり方は、
やがてアウトサイダーと呼ばれる。
人生の歩みの中で、
老成とともに叡智が輝き出るように数を増していく。
孤独を叡智として抱えようとする姿勢には、
孤立感を昇華しようとする。
それは切実な試みである。
幸福の追求を断念して、
初めて幸福が得られる。
新たな旅立ちの喜びが、
また祈りにも似た感動が込められる。
様々な驚きと幻滅を感じつつ、
自分が自分でしかありえないことを痛感する。
漂流するしかない自分の宿命を、
悲痛なまでに確認する。
死の脅威に暴力的にさらされた人間として、
悲しみとの共感を手に入れる。
自己陶酔的な美の雰囲気を求めながら、
深い内省と自己凝視を宿すようになる。
身も凍るような厳しさの中で研ぎすまされていく。
戦いと言う未曾有の人災により、
人間の心に深い闇を知る。
何よりもその闇が自分の体の中に抜きがたく、
わだかまっていくことを思い知る。
自己の災厄を世界の災厄に重ね合わせ、
普遍的な人間性に開かれていることを実感する。
私生活をめぐる苦悩も、
人間の苦悩へと昇華していく。
内面世界に広々と広がる宇宙が、
そして外部世界と内なる宇宙との合一が描かれる。
激しく仮借ない自己検証を繰り返す。
極論を恐れずに言えば、
その美しく整った世界観を打破する。
刹那的なもの、
悪魔的なものを取り込もうと苦闘する。
均整と潤和をあえて遠ざけるように、
ひたすら激しく荒れ狂う混沌の中に立つ。
刹那的な衝動と瞬間の享楽におちいる。
その味わいは強い麻薬のような感覚を撹乱させ、
心の奥底に封印される。
禁じられた祝祭を解放しようとする。
自暴自棄といえる苦に、
死の恐怖と快感。
深い絶望に虚無を示す。
平和的善的なヒューマニズムとして語る。
それはあまりにも大きく複雑な内実を内に秘めている。
無邪気な若さと、
みじめな老い。
恋する相手への激しく赤裸々な思い。
抑えようもなくほとばしる突き上げる情熱。
あたかも消えようとしている炎を燃え上がらせる。
悲痛な執着さえ、そこに漂っている。
観念的ではなく、現実として死の実感が充満する。
乾いた笑い。
誕生と死は変わることなく、
永遠に繰り返されている。
人間は個として存在しているのではなく、
長い進化のひとこまとして存在する。
ふたつの楽園は過去と未来へと、
延長された無限のつながりの中にある。
はじめてその存在の意義をみる。
あたかも自分の尻尾を噛み付こうとしている犬のように。
それは永遠に解ることのない謎でしかない。
自分を超ええること。
他者のために自分を投げ出すこと。
さらにそれを凝縮した言葉によって包み込む、
その中にしか救いはない。
奉仕という形で生まれる長いさすらいは終わりない。
自分の内面世界にその実話を求める。
ただそれだけである。
詩とはなんであるのか?
詩とはなんのために書くのか?
それは誰も解らない。
ただ、風の中にある。
   御供

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