2010/07/17

とまり木


いつの時代も都会の片隅に小さなとまり木のBarがある。
人恋しくて集まってくる若者たち。
安くてあったかくて。
交わす会話が欲しくて。
一瞬をまぎらわす酒が飲みたくて。
はやばやに飲み、
都会の喧噪の中をバイクを駆って寄ってくる。
楽しい会話と、
未来の岸辺に立つ自分を見たくて。
人間はみなこの大都会という人間の森で、
さみしさややるせなさにひしがれている。
自由と創造が欲しい。
確かなものを見つけにやって来る。
ある者は本当のやさしさと思いやりを持って。
またある者は夜の暗やみのさみしさからのがれのために。
密に群がる蜂のようにやって来る。
そのとまり木はなくてはならない時代の玉手箱。
しっかりしたBarにつかまりたくて走ばやにやって来る。
何か目に見えないものを探したくて。
時間の先端を見つけたくてやって来る。
東京という都会に憧れて来たものの、
何も確かなものを手に入れられないまま、
このとまり木にやって来る。
家にはあたたまるものも少なくて、
家には誰も待つものもいない。
明日やることはおきまりのこと。
未来を夢見て懸命になってやることにも飽きて来た。
でも何かあるはずさ。
情熱ってやつが。
エネルギーをフル回転させてあたりを見渡せば、
同じようなヤツが同じようにあえいでる。
時おり、新しい風が吹き抜ける。
この人間の森をひとしきり風が吹く。
空にはきれいな月が輝いている。
今どこにいて、
何時なのかも忘れて生きている本当が体の中をこだまする。
私はその群れに入り、
人間の森の未開の地に踏み込む。
新しい友にさそわれて、
新しい森は私を手招きする。
中からきれいな響きの声が聞こえる。
夜のしじまで、
光が輝く。
人間であることを照らし出す。
心の中を大きな深呼吸をして、
じっと中を見つめ足踏みをする。
中にはタイム・カプセルのように、
人間たちが若さにあふれ楽しい酒を酌み交わしている。
何という驚き、
何という夜、
何という歓喜、
コレで救われる。
いつの時代にも都会には友と友を結びつける、
とまり木のような小さなBarがある。
みな人恋しくて集まって来る。
時間というはしごを踏み外し、
自分だけの時間の中におき、そしてやって来る。
日常の時計はもう誰もしていない。
ひとりになるのがとてもいやな時、みながやって来る、
とまり木というBarに。
私はこの風景をどこかで見たような既視感にかられる。
心の底の頭の裏の中に秘そんでいる何かに気づく。
どうしたんだろう。
青春の無駄使いだぞ。
思っていたあの時間にフラッシュバックする。
あのとまり木に止まっていた時間は、
とても有意義な時間だったに違いない。
だってこうも懐かしく自分を振りかえることはないから。
愛を感じて!
愛を送ろう!
   御供 2003/11/12

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