この時を永遠にしようとは思わない。
この時はこの時で結構だ。
私にも刹那をおのがものにするだけの才覚はある。
既にいま陽は動いている。
というその言葉も砂の上に書いたに過ぎない。
それも指ではなく、
すぐに不機嫌に変わる上機嫌な心で。
貝殻と小石と壜の破片と。
私の心も星の波打ち際に転がっている。
私はいつも満腹して生きてきた。
今もゲップをしている。
こんな中途半端な生き方をしてきた私の言葉などなんになる。
もう何も償おうとは思わない。
誰も私に語りかけない。
言葉で先取りできぬものが、
海から私の心に忍び寄る。
私の分厚い詩集が灰になる。
私は目の前の岩を眺める、
どんな表現への欲望も持てずに。
何の詩もないのに。
何の音楽もないのに。
心にひとつのリズムが現れ、
目に涙が浮かぼうとしている。
そう書いた。
舌足らずのその言葉。
私の何にふさわしいというのか。
書き得ぬものは知っている。
書き得ぬものは知らない。
言葉は風に乗らない。
言葉は紙に乗らない。
もう問いかけはすまい。
答えよう。
我と我が身に。
私にむけられるものがあるとすれば、
それは無言の他にない。
海というこの一語にも偽りはある。
けれどなお私は言い募る。
嵐の前に立ち騒ぐ混に向かって。
口が口を封じる。
熱い耳に海よりも間近に、
口はすねたようにつぐんだまま。
またしても私の言葉の不正。
そう書いてなお書きつぐ。
私は素直になりたい。
もう夢も見ることはないだろう。
だが私は私の文字を消すことはない。
模倣に模倣を重ねて、
私は耳をおおう。
かたく両手で、するとなお大きく人の血のめぐる音が聞こえる。
私に語りかける声が聞こえる。
限りなく経正な声が、
風は私の内心から吹いている。
書きかけて忘れていた一行を思い出したい。
目を射る逆行。
今、霊感が追い越していく。
私はわずかな言葉を残して、
何かを伝えることではないことはわかっている。
言葉が幼過ぎるから。
言葉への旅は火星への旅ほどに遠く頼りない。
ともすれば私を襲う真空の深いとどろき。
そして、初めて私に投げかけられる。
自覚への君の言葉。
それはそれを思いつくことができぬ。
御供 2001/2/6
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