2010/07/02

この時を


この時を永遠にしようとは思わない。
この時はこの時で結構だ。
私にも刹那をおのがものにするだけの才覚はある。
既にいま陽は動いている。
というその言葉も砂の上に書いたに過ぎない。
それも指ではなく、
すぐに不機嫌に変わる上機嫌な心で。
貝殻と小石と壜の破片と。
私の心も星の波打ち際に転がっている。
私はいつも満腹して生きてきた。
今もゲップをしている。
こんな中途半端な生き方をしてきた私の言葉などなんになる。
もう何も償おうとは思わない。
誰も私に語りかけない。
言葉で先取りできぬものが、
海から私の心に忍び寄る。
私の分厚い詩集が灰になる。
私は目の前の岩を眺める、
どんな表現への欲望も持てずに。
何の詩もないのに。
何の音楽もないのに。
心にひとつのリズムが現れ、
目に涙が浮かぼうとしている。
そう書いた。
舌足らずのその言葉。
私の何にふさわしいというのか。
書き得ぬものは知っている。
書き得ぬものは知らない。
言葉は風に乗らない。
言葉は紙に乗らない。
もう問いかけはすまい。
答えよう。
我と我が身に。
私にむけられるものがあるとすれば、
それは無言の他にない。
海というこの一語にも偽りはある。
けれどなお私は言い募る。
嵐の前に立ち騒ぐ混に向かって。
口が口を封じる。
熱い耳に海よりも間近に、
口はすねたようにつぐんだまま。
またしても私の言葉の不正。
そう書いてなお書きつぐ。
私は素直になりたい。
もう夢も見ることはないだろう。
だが私は私の文字を消すことはない。
模倣に模倣を重ねて、
私は耳をおおう。
かたく両手で、するとなお大きく人の血のめぐる音が聞こえる。
私に語りかける声が聞こえる。
限りなく経正な声が、
風は私の内心から吹いている。
書きかけて忘れていた一行を思い出したい。
目を射る逆行。
今、霊感が追い越していく。
私はわずかな言葉を残して、
何かを伝えることではないことはわかっている。
言葉が幼過ぎるから。
言葉への旅は火星への旅ほどに遠く頼りない。
ともすれば私を襲う真空の深いとどろき。
そして、初めて私に投げかけられる。
自覚への君の言葉。
それはそれを思いつくことができぬ。
御供 2001/2/6

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