2010/08/27

アジア旅行より


海が壁をノックする。
小さな丸い窓の中、夜は若い。
その熱い砂漠の息を。
夜の風が船空の中を吹く。
私は目が覚めた。
これで十度目だ。
息もできない灼熱の中に無言で横たわって眠れない。
荒れ狂う心臓のように、
器官は熱く嘆きつつ。
鼓動をつづけ。
滅入った苦痛にいつまでもとめられているようだ。
絶えず新たな遠方に向かって、
意味もなく努力している。
おお、心が結晶のように明るくなる。
驚きもなく。
朗らかでもなく。
人間のためにはこんなところには住むべきではない。
その人間について離れないのは、
憧れとふるさとへの気がかり。
満たされぬ愛の思いがどこまでも追い回って、
この人間なる私を哀れな者にする。
みんながこの人間を激しく憎らしくみる。
それというのも、
人間は自分の胸の中に自分の敵を持っていて、
どうしても離れられないからだ。
ヘッセ
御供  1998/8/4

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