2010/05/23

あなたからの香り



風に乗ってゆくには重過ぎて、
おだやかな夢のような甘美な香りに誘われる。
香りに酔った私は、
頭にしみとおる幾つもの記憶を追う。
この香りは、
あなたからの手紙の便箋にしみこんだもの。
時折吹いて来る風がきれぎれに歌声を運んで来るように、
私の鼻をかぐわしいものに変える。
新緑萌ゆる生け垣を越えて香りに誘われる。
あなたへの思いを引き寄せる。
あなたへの心の中に、
甘美な愛の調べを聞きわける。
私は目を閉じて、
つつましいあなたからの香りを吸い込む。
すると、その香りはひそかに私の心に、
あなたの影を投げかける。
やさしいあなたからの香りは、
土の匂いと混じり合い。
なま暖かい真昼の風に乗って、
もの静かな客人のように窓から入って来る。
私はよく考えてみた。
この香りがこんなに貴重に思われるのは、
私の中のあなたへの愛が大きく咲いているからだと。
その香りは魅力的に私をとらえ、
あふれるばかりの愛で私を包む。
予感させる歌のメロディのように。
そっと愛撫しながら私を感動させる。
比類なく清らかで繊細だ。
私はあなたからの香りに夢中になり、
何度も何度も手紙を読み返す。
その度、私は勇気が湧いてくるのを感じる。
甘い忘却と甘い現存が繰り返す中で、
あなたの香りが私を包み支配する。
  御供

0 件のコメント: