2010/04/05

告白「ヘルマン・ヘッセ」より



私の友達は誰か?
太平洋の上空を舞う渡り鳥。
難破した船乗り。
羊飼いのいない羊の群れ。
夜、夢、ふるさとを持たない風など。
私の歩いて来た道端に壊れた寺院や、
夏のように生茂って荒れ果てた愛の庭がある。
弱々しい愛の身振りの女たちがいる。
私が渡って来た数々の海。
それらは声もなく沈黙に沈んで跡形もない。
沈んで消えてしまったものを誰も知らない。
幾多の王冠も栄華の時も、
木蔦を巻いた友のひたいを知る者はいない。
それらは私の歌に揺られている。
夜ごと私の夢の中に青ざめた姿を仄かにあらわす。
そして私の痩せた右手がせわしく、
鉛筆で私の命を掻き回す。
あわただしく私の人生を掘り起こすとき、
それらは私の夜に青白いきらめきを注ぎ込む。
私は目標を手に入れたことがない。
私の拳は相手を傷つけたことがない。
私の心は満ち足りた幸福を味わったことがない。
私は夜空に輝く星だ。
世界を眺め、世界をさげすみ。
自分の灼熱に燃え尽きる。
私は夜ごと荒れ狂う海だ。
嘆きながらおびただしい犠牲を呑み込み。
古い罪に新しい罪を重ねる。
私は国を持たない王様だ。
誇りに育まれ、誇りに欺かれ。
私は世界から追放された。
私は無言の情熱だ。
家にはカマドがなく。
戦いでは剣を持たない。
ただ、自分の力に病んでいる。
   御供

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